サバンナの夜明け③
退職後、私は朝、仕事に行く妻を見送り寝る。その頃は完全に昼夜逆転していた。夕方まで寝て、妻の帰る時間が近づくとそれとなく野菜を炒め夕飯を作る。そんな日々が続いていた。
その日も夜、寝ようとしたが、寝られず。何となく外を車で走ろうと思った。真冬の明け方4時、あてもなく車を走らせた。河川敷きに着き、坂を下って降りる。
エンジンを切り、ぼんやりと外を眺めていた。「何してるんだろ…俺って本当にダメなヤツだな。これからどうやって…」と白い息をはきながら思う。
目の前には木々が並ぶ、ただの河川敷。次第に朝日が登り始める。
その時、朝日に照らされた木々が何処と無く動物に見える。
「あれ、ゾウぽくないか…。あれは、キリンみたいだ」とまるで、サバンナを悠然と歩く動物に見えてきた。あまりの眩しさに、美しさを覚え、時を忘れて眺めていた。
「ここから、俺もまた歩き出そうか。」少しだけそう、思うことができた。毎朝、見るのも憂鬱だった太陽がこんなにも綺麗な存在だと気付くことができた。
今になってみたら、当たり前のことだけど、当時は、無気力で生きている意味を見出だせなかった。明日も朝陽を見てみようかな。と少しだけ前向きになれた。
エンジンをかけ自宅に車を走らせる。…とその前に朝食を食べようとすき家に入る。並盛の牛丼の甘い味がする。
「あー俺、生きてんだな」って思えた。